イタリアを代表する児童文学作家、ジャンニ・ロダーリの童話『クリスマスツリー星』です。
ロダーリの名前を知らないイタリア人はいない、と言われるほど、
イタリア人はみんなロダーリの童話を読んで大きくなるそうです。
昨年の冬にロダーリのこの本が、オリジナルの形で復刻されました。
挿絵は私の敬愛するブルーノ・ムナーリです。
あらすじはというと…
主人公のマルコは、九歳の誕生日を迎えたばかりのローマッ子。
誕生日プレゼトに、おじいちゃんから揺り木馬をもらったは良いけれど、
子ども扱いされたようで、内心ちっとも嬉しくない。
早々に自分の部屋の片隅に投げ出したが、ほんの気まぐれでまたがってみた。
すると……。
気づけばマルコは、揺り木馬に乗り宇宙をさまよっていた。
それを見つけた飛行中の宇宙船が、マルコを宇宙船内に拾い上げ、
そして彼らの星へと上陸する。
その星は、誰もがパジャマを着ていたり、通りという通り、庭という庭に
クリスマスツリーが植えられているおかしな星。
「何でも破壊できるグラン・バザール」で人々は建物内のあらゆる備品、
果ては建物まで壊して憂さ晴らしをしている。
通りに並ぶお店の品物はどれもただ。ガラスのはめられていないウィンドーから、
人々は自由に好きな品を取って行く。
もちろんレストランもただ。
しかもこの星では、ガラスであれ鉄であれ、
何でもおいしく食べられるときている。
マルコの案内役にやってきたマルクスは、マルコと同じ年くらいの少年。
自分の意志と関係なくこんな星にやってきてしまい、
むくれているマルコだったけれど、「何でも破壊できるグラン・バザール」で
あれこれたたき壊し、気分はすっきり。
レストランで「鉄のステーキ 鉄板焼き」と「穴開きレンガの詰め物スープ」を堪能する。
聞けばこの星は一年中がクリスマスだという。
よく見てみればクリスマスツリーの飾りは、木に花が咲くように、
自然と木から生えているものだった。
おまけに、空からはアーモンド菓子がふってきたり、
町はスズランの良い香りに包まれいつでも春のような気候。
実に子ども心をくすぐる星なのだった。
実は、地球よりも科学技術が発展し争いのないこの平和な星の人々は、
宇宙技術の開発を進めている地球人が近い将来この星にやって来ることを想定していた。
地球人はこの星を征服し、自分たちを支配するのではないかと案じている。
そこで考え出されたのが、「五年H組作戦」だった。
ある小学校の五年H組の子どもたちに、定番の揺り木馬を作らせ、
それを持って地球に潜入させる、という作戦だ。
その木馬は、それにまたがった子どもをこの星へと連れてくるようプログラムされている。
ここへ来た子どもたちに、この星のことをいろいろと知ってもらい、
この星の人々と友情を育んでもらうのがその目的だった。
つまり、ここへやってきた子どもたちが大人になる頃、
例え地球人がこの星へ上陸する術を見いだしたとしても、
決して子どものころに育んだ友情を踏みにじるようなことはしないだろう、
という願いをこめた長期作戦なのだった。
実はひと月に10万人もの地球の子どもたちが、この星へ送られてきている。
そして、星の人たちと友好関係を築き、地球へと送り返されているのだった。
いよいよマルコが地球へ戻る時、マルコは泣いてしまう。
地球に戻れることの嬉し泣きではなく、別れを惜しんでの涙。
マルクスとの間に、しっかりと友情が芽生えていたのだった。
つまり
マルコは、クリスマスツリー星と地球の友好大使に、偶然にも選ばれた少年だったのです。
ロダーリは平和活動をしていたことでも知られていますが、
そんなロダーリの平和への願いやメッセージが強く感じられるお話でした。
この童話、『講談社子どもの世界文学』シリーズの一冊として1972年に邦訳されています。
その時の邦題は『パジャマをきた宇宙人』、翻訳者は安藤美紀夫先生。
安藤美紀夫氏に先生とつけたのは、私が先生の最後の教え子だからです。
大学で教わっていた時には、自分がイタリア語を学ぶなんて想像さえしていませんでしたが…。
今回、改めて先生の訳と原文を照らし合わせてみました。
いくつか「これ、何と訳したら良いのかなぁ?」という箇所があり、教えていただいたのです。
例えば、この星の政府の名前は「Governo Che Non C’e’」。直訳すると「無い政府」なんだけど、政府はあるわけで……。
で、先生の訳を見てみると「あるのかないのかわからない政府」となっています。
なるほどね〜、って感心することしきり。
他にも細かなところで、先生の名訳に拍手しちゃいました。
先生が生きていらっしゃったら、いろいろ教わりに行きたかったなぁ、って、
改めて思っています。
クリスマスツリー星は子どもにはもちろん、
ぐうたらな私にとっても「一日中パジャマのままいられる」魅力的な星でした。