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本日のイタリア語

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IN NOME DELLA MADRE

『母の名の下に』という題名です。
著者は エッリ・デ・ルーカ というナポリ出身の作家です。
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表紙の文字はヘブライ文字のMだそうです。
物語の主人公、Miriam のM。Miriam はマリアのユダヤ名です。
イエス・キリストの母、聖母マリアが受胎告知されてから、
イエスを出産するまでの物語でした。

マリアは今のイスラエルのナザレ出身。
そこで受胎告知されました。
その時マリアは木工職人のヨセフと婚約中でした。
慣習としてマリアは石打ちの刑にあってもおかしくありません。
しかしヨセフは全てを受け入れ、マリアと結婚しました。

マリアが臨月を迎えたころ、
ローマ軍による国勢調査が行われ、
地方に住むユダヤ人たちはベツレヘムへと出向くことを義務づけられます。
もちろん、マリアとヨセフの夫妻も招集されました。
長旅の後、ベツレヘムへたどり着いたところで、マリアはイエスを出産したのでした。

これはデ・ルーカの小説ですから、
どこまで史実に基づいているのかは、わかりません。
まあ、マリアが受胎告知され処女懐胎したということ自体、
キリスト教徒以外は信じてはいないでしょうし。

それはさておいても、
一人の女性、マリアが母になる過程が美しく描かれていました。
もし処女懐胎が事実であれば、
なるほど、この小説のように、周囲からの迫害も少なくなかったのでしょうね。
マリアは女性からも意地悪な言葉をさんざん投げつけられます。
もちろん、ヨセフとの結婚式にも近親者しか出席してもらえませんでした。

それでも、マリアはお腹の子どもを大切に育みます。
すごく強い女性です。
おまけに、ベツレヘムで見つけた小さな納屋で、
牛と自分をここまで運んでくれたロバに見守られながら
たった一人でイエスを出産するのです。
母は強し、です。

何気なく手にした本でしたが、
本当に美しいイタリア語で、読んでいて気持ち良かった。
詩的な情景が目に浮かび、母マリアの気持ちが痛いほど伝わってきました。

例えば、
Sa i miei pensieri. E' un maschio e mi rimprovera.
Occupa tutto il mio spazio ,non solo quello del grembo.
Sta nei miei pensieri, nel mio resipiro, odora il mondo attraverso il mio naso.
Quando uscira' mi svuoetra' , mi lascera' vuota come un guscio di noce.
Vorrei che non nascesse mai.
Arrivo' un altro calcio , pero' piu' gentile.
私が考えていることは、この子にお見通しだ。男の子なのだ。だから私をとがめているのだ(マリアが「お腹の子が女の子だったら…」と考えた時にお腹をけられて)。
私の体全てをこの子が占めている。お腹だけじゃない。
私の頭の中にも、私の息の中にも、この子がいる。私の鼻を通して、この子も世界の香りを嗅いでいる。
この子が出てきたら、私は空っぽになってしまう。クルミの殻のように私は空っぽになるに違いない。
生まれてこなければ良いのに。
その時、赤ん坊がまたお腹をけってきた。でもさっきよりずっと優しかった。

一番好きだったのは
Si formavano code ,le ruote s'impantanavano.
I campi erano bianchi , la strada nera di viandanti e fango,
il cielo una corrente azzurra sotto il vento del nord.
Respiravo profondp per far sapere anche al bambino le sorprese del mondo.
・・・
Gli zoccoli dell'asina bussavano la terra per saluto,
le cime degli alberi rispondevano scrollando un po' di neve giu' dai rami.
多くの人が列になって歩き、荷車の車輪がぬかるみにはまってしまっている。
畑は真っ白なのに、通りは旅人と泥で黒い。
そして北風が吹くと、空に青い一筋がさっと現れた。
赤ん坊にもこの世界の美しさを感じて欲しくて、私は深呼吸をした。
・・・
ロバのひずめが挨拶するかのように地面を鳴らすと、
木々のてっぺんがそれに答え、枝を揺らして少しばかりの雪を落とすのだ。

と…
あまりにも母親の気持ちが上手く描かれているので、
デ・ルーカって本当は女性? って疑っちゃうような本でした。
母だったマリアを改めて実感。
彼女に親近感がわいた一冊でした。
by arinko-s | 2009-06-12 20:06 | 読書 イタリア語
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