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本日のイタリア語

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Nel mare ci sono i coccodrilli

忙しさにかまけて、ブログ更新まったくしていませんでした。
この間、また多くの本を読んで、ウルウル感動したり、ドキドキはらはらしておりましたが、
中でも涙、涙だった一冊がこの本。

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アフガニスタンの少年の、過酷な人生を綴ったものです。

エナイアトラ・アクバリは、アフガニスタンのナヴァで両親、弟、妹と共に暮らしていました。彼らはイスラム教シーア派のハザラ人。民族同士の対立が続いているアフガニスタンの、この小さな村で、勢力をふるっているのはスンニ派のパシュトゥーン人です。パシュトゥーン人は、武装勢力であるタリバーンそのものではないものの、タリバーン同様にハザラ人を押さえつけ、支配下に置いていました。

エナイアトラの父親も、パシュトゥーン人の犠牲者のひとりでした。彼は、多くの村の男性と共に、イランへ物資の買い出しを強要されていたのです。イラン人はハザラ人と同じイスラム教シーア派であり、ハザラ人には多少なりとも彼らの言葉が理解できるためです。あるとき、エナイアトラの父親の乗ったトラックが道中、盗賊に襲われてしまい、物資は奪われ、父親は殺害されてしまいます。その後、パシュトゥーン人が家にやって来て、被害の弁償をせまられます。弁償できないならば、息子をよこせ、と脅されたのです。たまたまそのとき、エナイアトラと弟は家にいなかったために難を逃れたものの、その日からエナイアトラの不安定な生活が始まります。それは、エナイアトラが6歳のときのことでした。 

母親は2人の兄弟に、昼間はいつでも外にいるよう命じます。実際に2人を見ていないパシュトゥーン人には、ハザラ人の子どもを見分けることができないと考えてのこと。また家の裏に穴を掘り、人が訪ねてくると、母親は兄弟をその穴に隠れさせるのです。

しかし、エナイアトラが10歳になったころ、もう穴に隠れることが難しいほど、エナイアトラは体が大きくなっていました。ある日、母親は着替えを一枚とわずかな食料を布袋に詰めると、「少しの間旅に出よう」とエナイアトラを村から連れ出します。2人はトラックにゆられ、パキスタンのクエッタへやってきました。しかし、外出することもなく、3日間、簡易宿の中で過ごすばかりでした。4日目の朝、エナイアトラが目覚めると、隣で寝ていたはずの母親の姿が消えていました。宿の主人に訊ねると、アフガニスタンに帰ったと言うのです。ひとり取り残されたエナイアトラは、途方に暮れるものの、宿の主人に頼みこみ、雑用をするかわりに寝床を与えてもらいます。その日から、エナイアトラはどんなに汚い仕事でも、辛い仕事でも、まじめに取り組み、ひとり、必死に生きていくのです。

月日が流れ、エナイアトラは、同じくアフガニスタン出身の少年とイランに行くことを決意します。それまでにためたお金をブローカーに払い、トラック、バス、電車を乗り継ぎ、イランに入国。しかし、そこでの生活は決して楽なものではなく、ひたすら警察を恐れて過ごすのです。
そして……
エナイアトラはトルコへ、そしてギリシャへと渡り歩きます。しかし、どこまで行っても安住の地はありません。そして、さらにイタリアへ。
イタリアで、難民申請をし、今やっと平安な日々をおくれるようになったのです。

というお話。
読みながら、これは小説なのではないか、と思いました。
表紙に「エナイアトラ・アクバリの本当の話」と書かれているのですが、そういうタイトルの物語なのではないかと思ってしまうほど。想像を絶する話なのです。

パキスタン → イラン → トルコ → ギリシャ → イタリア への道中は、ものすごく過酷です。考えられません。

例えば、トルコのヴァンからイスタンブールにはトラックで向かうのですが、エナイアトラと同じ、移民希望者たちが50人。細工をされたトラックの二重底に詰め込まれるのです。3日間、身動きできないまま、トラックに揺られ続けます。ついた時には、皆、自ら動くことができないほど体が固まってしまっている。ジャガイモの詰め込まれた袋のように、二重底から放り出されたと、エナイアトラは語ります。

あるいは、イラン国境からトルコへは、山を歩き続けます。
アフガニスタン人、イラク人、クルド人、パキスタン人など、総勢77人もの列で、見つからないよう、昼間は木陰で休み、日が沈むと歩き始める。食べ物もろくにもらえないなかで、寒さと飢えのために次第にグループの人数は減っていきます。3日の行程、と言われていたのが、結局、山頂にたどりついたのは26日目のこと。その時には、12人が脱落していたそうです。

子どもを捨てるなんて、と信じ難い気持ちでしたが、最後まで読みおわると、母親のとった策が、その時の最善策だったことも理解できます。子どもを守るために、子どもを捨てなくてはならないなんて、そんな悲しい状況があって良いはずがありません。

イタリアは、ここ10年あまり、深刻な移民問題を抱えています。連日、船が漂着し、不法移民が大挙して止みません。この問題はアフリカ、あるいは東欧諸国からの移民だけのことだと思っていました。しかし、実は日本と同じアジアにも、行き場を失った人がたくさんおり、国から国へとさまよい、そしてヨーロッパにまで、落ちつく場所を求めている人たちがいるのだと、この本に教えられました。

あまりにも衝撃的でしたし、世界を知る一冊としてとても貴重な一冊だと思いました。
何が何でもこの本を翻訳したいと、知人の編集者を頼り、企画を練っていたところ、版権が既に日本の出版社に売られたことを知りました。
あまりにショックで、寝込みそう(!)なくらいでしたが、
でも、日本で出版されることを喜ぶことにします。
多くの人に読んでもらえる一冊になることを期待します。

(追記)
原題は『海にはワニがいる』です。ギリシャにゴムボートで渡ろうと決めた子どもたちが、「海にはワニがいるよね」と脅えるところからきています。学校に通ったことも、本を読んだこともない子どもたちにとって、海は未知の世界。山に囲まれたアフガニスタンですから、海を見たことのない子どもがいても不思議はありませんが、それまで知識を得る術がなかったことや、生きていくのに精一杯で周りを見回す余裕のなかったことが、子どもたちの会話からわかります。そんなことも、辛い現実のひとつとして、胸を突きます。
by arinko-s | 2010-10-01 15:44 | 読書 イタリア語
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