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本日のイタリア語

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IL SORPASSO 追い越し野郎

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Dino Risi(ディーノ・リージ)監督の最高傑作と言われる作品です。

舞台はフェッラゴスト(8月15日)のローマ。
人気のない町で、ブルーノ(Vittorio Gassman ヴィットリオ・ガスマン)は電話とタバコを探しまわっています。
バールもレストランも閉まっているし、公衆電話は見つからない、で車を走らせ続けていました。

そしてふと上を見あげたとき、ベランダから外を眺めていた青年、ロベルト(ジャン=ルイ・トランティニャン)と目があいました。
ロベルトは法学部の学生。試験勉強のためにローマに残っていたのです。
ロベルトは、ブルーノに快く電話を貸してあげます。
するとブルーノは、そのお礼に昼食をご馳走しようと、ロベルトを無理やり町に連れ出しました。
ブルーノは40代の陽気なおじさん。かたや、ロベルトは生真面目で内向的な青年。
対照的な2人のドライブが始まりました。

「しかたがない、食事をしたら急いで帰ろう」と、ブルーノに付き合うことにしたロベルト。
ところが、そう簡単にはいきませんでした。
ローマ市内で開いているレストランを見つけられず、郊外へ。
そしていつの間にか、車は北上しトスカーナへ。

ここまで来たのなら、とロベルトは、グロッセート近郊に住む親戚の家にブルーノを連れて行きました。
ブルーノはあっという間に、ロベルトの親戚たちと親しくなり、気づけばとっぷり日が暮れて…。
行き当たりばったりで、どんどん車を走らせるブルーノ。
「こうなったら電車で帰るしかない」と、ブルーノに別れを告げたロベルト。
けれども、電車は既に終わり。翌朝までローマ行きの電車は来ません。

仕方なしにブルーノと別れたレストランへ、ロベルトは戻ります。
そして真夜中に、ブルーノに連れていかれたのは、ブルーノの元妻と娘の暮らす家でした。
そして翌日、やっとローマに帰れると思いきや、ブルーノは海を満喫。
ジェットスキーに、モーターボート。
はたまた娘の彼氏と卓球勝負。

ようやくローマへの帰路についたとき、ほっとしたのか、ロベルトは一気に弾けます。
もっとスピードを上げて、前の車を追い越せ、追い越せ、とブルーノをあおり、はしゃぎます。
そして、調子にのったブルーノが対向車線に出たとき、前方からやってきたトラックと正面衝突。
ブルーノはうまいこと車から放り出され軽症ですんだものの、ロベルトは車ごと崖から転がり落ちてしまいました。
助かるわけがありません。
ただ茫然と、転がっていく車を見つめるしかないブルーノ。
そのとき、ロベルトの名字さえ自分は知らないことに、思いいたるのでした。

というあまりにも衝撃的な結末でした。
それまでの陽気なブルーノが一転、表情を陰らし震える姿が目に焼き付いてしまうような終わり方です。

このガスマン演じるブルーノ。
とにかくお調子者の適当男です。
一方的にしゃべり続けるブルーノの姿こそ、日本人のもつステロタイプのイタリア男のイメージかもしれません。

一方、どこまでもおとなしいロベルト。思っていることを口にすることもままならず、ブルーノに振り回されっぱなしです。
わたしだったら、さっさと車降りて、どうにか家に帰っちゃう。
まったく、しっかりしろよ、ロベルト! ってげきを飛ばしたくなっていたら、この終わり方です。
ロベルトが救われません。

でも実は、ブルーノにどこか心を開かせてもらったようなところもあるから、ロベルトはブルーノに感謝していたのかもしれません。
ブルーノと出会えたことで、なりたかった自分に近づけたというか。
だとしたら、少しは救いがあるのかも。

でも何より、茫然自失のブルーノの姿に胸が痛みました。
自分のしでかしたことの大きさに、この先ブルーノは押しつぶされてしまうのではないか。
ちゃんと生きていけるのだろうか。
心配です。

この映画、イタリアンコメディ、と呼ばれているようですが、うーーん、コメディじゃないよな、と思う。
悲しい映画です。

撮影は1961年、発表が62年。
その翌年63年の銀のリボン賞(Nastro d'Argento)、ドナッテッロ賞(David di Donatello)共に、ガスマンが最優秀男優賞を受賞しています。
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by arinko-s | 2012-09-11 21:32 | 映画 イタリア
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