『
夜よ、こんにちは』のマルコ・ヴェロッキオ監督の、2009年の作品です。
ムッソリーニ(Filippo Timi フィリッポ・ティーミ)が、まだ社会主義の活動家だったころ、警察に追われる彼を救ったイーダ(Giovanna Mezzogiorno ジョヴァンナ・メッツォジョルノ)。
2人は恋に落ち、イーダはムッソリーニを支援するために私財をなげうちます。
そして2人の間には、息子ベニート・アルビーノが生まれました。
しかし、次第に政治の中心的存在となり、権力を手にしていったムッソリーニは、イーダを遠ざけるようになります。
別の女性ラケーレ・グイディと正式に結婚し、イーダの存在を否定するようになるのです。
それでもイーダは執拗に、ムッソリーニに近づこうと様々な場所に追いかけていきます。
そんなイーダをムッソリーニは、イーダの故郷に軟禁しました。
けれども、それだけでは自分の思惑通りにはいかないとわかり、今度は彼女を精神病院に幽閉してしまいます。
そして、母親と引き離された息子の方は、ファシスト党員の養子にされ、寄宿学校へと入れられてしまいました……。
という、イーダという女性を軸に、実話を元に描いた映画です。
このイーダという女性の存在については、2005年、イタリア人とアメリカ人ハーフの2人のジャーナリストが取材・作成した『ムッソリーニの秘密』というドキュメンタリーで、明らかになったそうです。
結局、イーダは精神病院から出してもらえることはなく、1937年に亡くなってしまったそうですが、第二次世界大戦が始まる前に亡くなったことがせめてもの救いかもしれません。
わたしには、どうしてそこまで彼女がムッソリーニに執着したのか理解できませんが、それほど愛していたのであれば、ムッソリーニが処刑されたことを知ったら本当に気が狂ってしまっていたかもしれません。
しかもその時、あれほど嫉妬を覚えた妻ではなく、また別の愛人が一緒だったと知ったら!
何より気の毒なのは、息子のベニート・アルビーノです。
常にファシスト政府の監視下に置かれ、友人たちからは「ムッソリーニの真似をしてみろ」とからかわれ、最期は彼も精神病院に入れられて27歳の若さで亡くなってしまうのです。
イーダの父親は村長をしていた、土地の名士だそうです。
イーダ自身はパリの学校で美容医学を学び、ミラノでエステサロンまで開いた女性。
それほどインテリで、商才にも長けていた女性が、なぜムッソリーニの狂気を見抜けなかったのか。
追えば追うほど逃げいてくムッソリーニ。華やかな舞台を歩き始めたムッソリーニが、イーダにはより輝かしく見えたのかもしれませんね。
さっさと過去の男には見切りを付けて、新しい道を歩んでいけば良かったのに〜〜、と思わずにはいられませんでした。
いや、でもひょっとしたらムッソリーニに未練があったのではなく、ひとこと自分の存在を認めさせたいだけの意地だったのかもしれません。
何より印象的だったのは、イーダ役のジョヴァンナ・メッツォジョルノ。
『
L'ultimo bacio』や『
LEZIONE DI VOLO』でお馴染みの女優さんですが、今までのかわいらしいイメージを脱ぎ捨て、この役に体当たりしている感じです。
彼女のヒステリックに怒る演技はもう何度も目にしているけれど、その上を行く迫力。
執念が、全身からめらめら湧き出ていました。
こんなにかわいい女優さんなのに、ヌード姿も老け顔も惜しみなく披露。ますますファンになってしまいました。
もうひとりの主役、ムッソリーニ役のフィリッポ・ティーミは、今乗りに乗っている役者さん。
俳優だけでなく、監督もするし、作家としても活躍しているそうです。
この役の評価もとても高かったようですが、ただひとつ、わたしの知っているムッソリーニよりも数倍男前で、ムッソリーニと結びつけるのが難しかったです。