Nicolo' AMMANITI(ニコロ・アンマニーティ)の一番新しい小説。
昨年の出版以来、今もベストセラーのランキングを飾る一冊です。
ニコロ・アンマニーティの小説は、『ぼくは怖くない』(Io non ho paura)が邦訳されているし(早川書房)、ガブリエレ・サルヴァトーレス監督によって映画化され日本でも公開されたので、ご存知の方も多いかも知れません。
舞台は2000年、ローマ。
主人公のロレンツォは14歳。にぎやかなところが苦手な少年です。
つまり友人たちの輪の中になかなか入れない。でも、本人はむしろひとりでいることに安堵感を抱いています。
ところが、これが親にとっては心配の種。
カウンセラーの先生のところに通わされてしまいます。
ロレンツォは、どうすれば友人たちにからかわれずにすむか、親に心配をかけずにすむか、周囲の反応を見て学んで行きます。
そして表面的には、周囲の子どもたちと何ら変わらない振りをするようになっていきます。
保身術を覚えたのです。
ある日、クラスで一番の美人とその友だちの男子がなにやら相談をしていることにロレンツォは気づきます。
一週間のグループ旅行、スキーをしに、コルティナ(北イタリア、ヴェネト州の町)の別荘に行く計画を立てているのだと知ったロレンツォは、家に帰ると、思わず母親に「スキー旅行に誘われた」と嘘をついてしまいます。
それを聞いた母親は、大喜び。すぐさま父親に電話をし、報告する始末。
ロレンツォは、後に引けなくなってしまいました。
いよいよクラスメートたちがスキーに出発するその日、
ロレンツォは集合場所まで送って行こうとする母親を途中で帰し、そして自分はこっそり地下鉄に乗り、家に帰ります。
アパートの地下にある物置で、一週間隠れて過ごすためでした。
そのための用意は万端。毛布や食糧品をちゃくちゃくと運びこんでいました。
隠れ家で一人きりのヴァカンスを楽しんでいたロレンツォの元に、突然、父親と前妻の間に生まれた姉のオリヴィアがやってきます。
行き場がなく困っているオリヴィアを、最初ロレンツォは頑に拒否ます。
しかし母親に嘘がばれそうになり、オリヴィアに助けてもらう。
取引の形で、自分だけの隠れ家に入れてあげることにしました。
実は、オリヴィアはドラッグ中毒でした。
ロレンツォは詳しい話を聞かされていませんでしたが、彼女が深刻な状態に陥っていることを察します。
薬が切れ、もだえ苦しむオリヴィアを見て、ロレンツォは脅えると同時に、このまま死んでしまうのではないかと心配します。
そして、嘘がばれるかもしれないという危険を覚悟で、彼女を助けるために隠れ家を抜けだしました。
一緒に育ったわけではない姉弟ですが、結局このことがきっかけで、お互いの愛情が深まるのです。
そして物置で過ごす最後の夜、2人はツナの缶詰で乾杯し、再会を約束しました。
というのが、あらすじです。
明るく話し好き、というのが日本人のイメージするイタリア人のステレオタイプ。
実際、話し上手の人が多い、とわたしも思います。
でも、『
素数たちの孤独』のマッティアもそうでしたが、実はそうではないイタリア人もたくさんいるんですね。
当たり前のことですが…
個人的にはロレンツォにすごく共感を覚えました。
わたしも、意味もなくつるむの苦手でした。
でも逆にあれこれ詮索されるのも面倒くさく、適当に合わせることも覚えていましたねぇ。
う〜ん、わかる、わかる、って何度も思いました。
ロレンツォが隠れ家にした物置は、cantina(カンティーナ)と呼ばれるもので、大抵のアパートの地下にあります。
各部屋それぞれに与えられたこのカンティーナは、なかなか広く、食糧貯蔵庫としても使われています。
大抵どの家も、ワインやらオリーブオイルやらトマトソースの瓶詰やらジャムやら、保存食をたくさん置いています。
その他、古くなって使わなくなった家具とか、がらくたとか、バイクとかいろんなものが詰めこまれていることも少なくありません。
ロレンツォのカンティーナには、以前の住人、伯爵夫人の遺品も数多く置かれていました。
ロレンツォはその家具をうまく使って、数日間滞在するのに不便なく過ごせるように部屋を整えておいたというわけです。
ここでひとつ学んだこと。
イタリアには
nuda proprieta' という不動産の買い方があるのだそうです。
身内も財産もない老人が、生前に不動産を、自分の身柄と共に売る、ことだそうです。
買った方は、もちろん売り主が亡くなるまで、その売り主が共に暮らすことを認めなくてはなりません。
そして売り主が亡くなると、家の中にあるものすべてが、買い主の所有物になるとのこと。
ロレンツォの両親は、この方法で家を買っていたのでした。だから、カンティーナに伯爵夫人のものがたくさんあったのですね。
ただし、イタリアでは「nuda proprieta'で家を売ったら、死ぬことはない」といわれているのだとか。
嘘か誠か知りませんが、死にかけていた人が、この方法で家を売った途端、20年も生き延びたりするそうです。
つまり、買った方は20年間、他人と暮らすことを耐えなくてはならないということ。
安いかわりに、そういうリスクもあるという売買の方法ですね。
話は戻って、実はこの物語の最後は、すごく衝撃的です。
せっかく2人の間にシンパシーが生まれて、2人はそれぞれの生活に戻ったというのに!!
10年後、ロレンツォの元に警察からの呼び出しがあります。
それはオリヴィアの遺体の身元確認のためでした。
オリヴィアの財布の中に、別れるときに書いたロレンツォの連絡先のメモが残っていたのです。
ロレンツォと「もう二度とドラッグには手を出さない」と約束したのに、結局ドラッグが原因でした。
すごく心温まる結末かと思いきや、最後の2ページで奈落の底に突き落とされた気分でした。
悲しすぎる。
ニコロ・アンマニーティの本はどれも、読者のレビューが数えきれないほど。
さすが大人気の貫禄を感じさせます。
その内容も、これまた人気の作家らしく、賛否両論。
でもわたしはこの小説
★★★★★でした。
早く次が読みたいぞ。
そうそう、原題を直訳すると「きみとわたし」です。